第一章 「アルファ ストライク」
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2005年4月9日AM 4:15
海上自衛隊 装甲護衛艦「長門」艦内
自衛艦隊 司令部



 「情報部第一課より入電!」 通信幕僚、早坂 勝則 三等海佐は、かなりあわてた様子で自衛艦隊司令部に駆け込むなり報告した。
 「繋げ」 平 作治 海中将が命令すると早坂は通信コンソールのスイッチを入れた。壁の大型スクリーンに映像が映り、その中の人物が敬礼する。

 「大島長官、情報部第一課課長 三井です。」 三井 健 二等陸佐は見事な陸軍式敬礼をしたまま言った。
 「大島です。いよいよ動きだした、か‥‥?」 大島 隆 海大将は答礼すると普段は温厚な表情をこわばらせ鋭い目をスクリーンの向こうにむけた。
 「はっ!、今より20分ほど前、我方の戦略偵察衛星が、高麗の江原道安辺郡にある旗対嶺(キッテリョン)ミサイル基地での弾道ミサイル燃料注入を探知しました。また、各空海陸軍基地において無線交信が活発化しています。彼らの東海艦隊も行動開始した模様です。統合幕僚司令部はDFCON2を発令しました。」 三井は敬礼を下ろし、報告文を読み上げると再び不動の姿勢になる。
 「大統領府ホットラインが開きます!!」 早坂が告げると同時にスクリーンの三井が映っている部分が左半分により、右半分にグレイのスーツをきっちりと着込んだ人物が映し出される。大きな皮製の椅子に腰掛けたその男の頭髪は軽くウェーブ掛かった白髪で銀縁のメガネフレームが光っている。
 「三宅です。」 三宅 豪は現在60歳。国防大学第二期卒、海上自衛隊の現場指揮官を渡り歩き、45歳からその資質を買われて統合幕僚司令部入り、59歳で国防軍−統合幕僚司令部総長の任を退官した後、そのまま国家防衛総省、国防大臣として任命されたいわば叩き上げである。歳を取ってもその顔は黒く日焼けして引き締まり、眼光は鋭い。
 「先ほど大統領からの採択が下った。高麗社会主義人民共和国の一連の行動に関して、我、民主日本国政府は国民の安全を最優先に確保、ならびに高麗共和国内部に拉致されている200余名の日本国民を救出するため、行動を開始する。防衛プランAに基づき、国防軍は積極的自衛状況を開始せよ!」
 「了解しました。状況を開始します。」国防大臣に対し、大島は見事な海軍式敬礼をすると、三つの命令を発した。
 「これより我海上自衛隊は積極的防衛をはたすため、『甲一号作戦』を開始せよ。情報部は引き続き敵状況を観察、日本海に展開中の『飛鳥』ならびに第一、第二機動艦隊は島根沖ポイントGに集結し、作戦プランに従い、敵核ミサイル基地を攻撃すると共に敵艦隊の迎撃に備えよ。第一護衛隊群はポイントBに向かい、弾道弾迎撃に備えよ!!弾道ミサイル発射を確認し次第、状況開始する旨、米太平洋艦隊司令部に状況を打診せよ!!」
 防衛プランAとは他国の核兵器などの攻撃に対して積極防衛、すなわち発射寸前のミサイル基地に対して弾道ミサイルを打たれる前に破壊するということである。中でも『甲一号作戦』とは、投入可能な艦隊を全て投入し、ミサイル基地破壊の実行と同時に、情報部があらかじめ掴んでいた、彼の国が『招待所』と呼ぶ拉致被害者達を洗脳教育するための施設を、すでに潜入中の陸海自衛隊特殊部隊が急襲し、そこに軟禁されている日本国民を混乱に乗じて救出しようとするものだった。

 2004年に入り、隣国、高麗社会主義人民共和国は世界から孤立の一途をたどっていた。旧ソ連から流出したミサイル技術の流用による独自の核兵器開発、これまでに周辺国から拉致した民間人を盾に身勝手な要求を繰返し、かつての同盟国、ロシア連邦共和国や中華社会主義連邦からももはや見放された状況であったこの国は、国家元首を含む一部の上層階級以外の人民は飢えや貧困にあえぎ、国家としては末期症状の様相を呈していた。そして、現状を打破できない政府および軍は、その矛先を隣国「民主日本国」に向け始めたのである。2005年1月に入り、高麗共和国元首は国営TV放送局である高麗中央通信公司を通じ、「我偉大なる高麗社会主義人民共和国を日帝は蹂躙しようと画策している!!日本は今までの過ちを直ちに謝罪し、食料、エネルギー無償支援をその賠償として要求する!!さもなくば、わが国は日帝から招待してやった日本人を含め、卑劣なる日本帝国はわが国の手痛い報復を受けることになるだろう!!」と一方的に通告してきたのである。
 これに対して「民主日本国」政府は大統領、桐生 信義の公式声明として「わが国は高麗社会主義人民共和国の如何なる恫喝にも屈しない。もし彼の国が、わが国の国土、国民の生命、資産、権利を脅かすようなことが有ったなら、全力で積極的自衛行動を執るものである。しかしながら、彼の国が、一連の拉致事件を認め、また、全ての拉致した被害者達を開放し、真の国交正常化を図ろうとするなら互いの発展のため、喜んで援助の手を差し伸べよう」と対決の姿勢は崩さないものの、戦争回避の為の交渉が粘り強く行われた。民主日本国と高麗共和国とは後者建国以来国交はない。今までに逝く度かの国交正常化交渉も行われたが、一方的な決裂によりそれは未だに達成されていない。交渉はフィリピン政府の仲介を経てフィリピン国内にて非公式の次官級協議を執り行ったが、高麗共和国政府は、意固地なまでにその態度を改めようとはしなかったのである。
 三月に入り、日本政府は、何の進展も期待できないとして極秘裏に「拉致被害者救出作戦」通称、オペレーション『ロメオ』を発動。これは、潜水艦を使用して、密かに高麗共和国内に45名の海上自衛隊海兵課部隊および陸上自衛隊特殊工作部隊を潜入潜伏させ、収容所の実態調査ならびに、拉致被害者の救出準備を整えさせ、国土防衛作戦『甲一号作戦』の開始と呼応し、その混乱に乗じて収容所を急襲し、拉致被害者達の救出を敢行しようというものである。
 また、『甲一号作戦』は別名『パシフィック・ストーム作戦』とも呼ばれ、アメリカ海軍海兵隊との共同作戦となっている。国防軍は作戦発動と共に、その取り決めに従い、ハワイ米太平洋艦隊司令部に行動開始を打診することになっていた。
 当初、環太平洋地域におけるアジア諸国の安全保障は、同盟諸国国との取り決めで民主日本が担当することとされていたため、政府は対高麗問題に関して、武力攻撃事態が勃発した際も民主日本国国防軍のみで対処することとされ、米軍など環太平洋同盟軍の参入は要請しないとの方針を打ち出していたが、対高麗問題に対しては、1960年代に入ってから多発している拉致問題に関して、アメリカ合衆国国民にも被害者が多数出ていること、そして、1953年の日米同盟軍の半島からの敗退以来、アメリカにとってもこの地域が核兵器を始めとする軍事的危険地帯になっているとし、強く参入を求めてきたため2000年に入って著しく高まってきた高麗半島地域の軍事的脅威に対する日米共同組織、日米高麗半島対策会議が発足した。その中で立案されたこの作戦は、民主日本国防軍が日本海側を分担するのに対し、米軍は東シナ海側を担当し、主に陽動が主目的とされているが米海軍は2個空母任務部隊を投入するとされており、アメリカはこれに乗じて高麗共和国政権の打倒を狙っている節があった。

 前哨戦が、今にも始まろうとしていた。



2005年4月9日AM 4:30
日本海 新潟軍港沖 
海上自衛隊 航空装甲護衛艦『飛鳥』艦橋



 「第一、第二機動艦隊に指令。これより状況を開始する。艦隊進路240。ポイントG(ゴルフ)で艦隊を集結させる。第一護衛隊より『時雨』を分離。『時雨』は『秋月』『照月』とともにポイントB(ブラボー)に急行せよ!!」 連合護衛艦隊司令長官、北岡 文雄 海中将は自衛艦隊司令部から『甲作戦』発動の命令文を受け取った後、厳しい面持ちで幕僚たちに下令した。
 「抜錨!!進路240、両舷前進微そーく!!」『飛鳥』艦長、篠丘 利之 一等海佐は前を見据えながら命令を下す。
 「両舷前進微そーく」 『飛鳥』航海長 清水 明 二等海佐が復唱すると、航空装甲護衛艦DVC101『飛鳥』は軽く身震いしたあと、艦首にさざなみを立てながらゆっくりと前進を始めた。


2005年4月9日AM 4:50
日本海 佐渡島より50浬の沖



 三つの艦影が一糸乱れぬ統率の元、薄暮の日本海の荒波を切り裂くように、北に進路をとって突き進んでいた。その単縦陣の殿にはこれまでの国防軍海上自衛隊艦艇としては異形の印象を見るものに与えた。
 DCG-133 イージス巡洋護衛艦『時雨』である。 日米太平洋戦争、欧州開放戦争時と活躍し、陽炎型駆逐艦『雪風』とともに最後まで生き残った幸運艦、春風型駆逐艦の名を受け継いだこの艦は、1995年に採用された『天城』級イージス巡洋護衛艦の三番艦として1998年に竣工配備されたが、2000年に入って時代の変化に対応すべく、三度の改装を受け、実験艦としてさまざまな新機軸を組み込まれている。中でも従来のスクリュープロペラ推進方式改め、ウォータージェット推進とされた事に伴う機関の刷新と新たな排気系統をステルス性を持たせた塔状の構造物は一層異彩を放っているが、 その結果、『時雨』は最大戦速時、オリジナルを上回る35ノットを発揮するに至った。 また、イージス機能は一層強化され、10マッハを超える速度で飛来する弾道ミサイルを確実に捕らえる「SPY−1JE」型レーダーや他の艦を統率する〇五式統合射撃管制システムは、引き連れる『秋月』級迎撃ミサイル武器庫艦2隻を一括統制し、この国の防空をより一層強固なものにするはずという期待を一身に受けていた。
 『秋月』級防空武器庫艦は1999年から順次竣工した新鋭艦で、基準排水量9,550トン、Mk.41VLSを対潜攻撃用(スタンダード等の対空ミサイルに転用可)に32セル一基、艦隊防衛用に64セル四基の合計288セルを装備する他、弾道ミサイルを成層圏で撃破するための長距離艦対空迎撃ミサイル、ABM−01(Anti-Ballistic Missile-Missile)専用に〇三式VLS、64セルを1基搭載し、日本周辺国の核ミサイル配備の脅威に対抗すべく開発された護衛艦であり、『時雨』『武蔵』などのデータリンク統合制御システム搭載艦と組合わせることで最大限の能力を発揮することが出来る。武器庫艦とはその名が示すように、大量のVLS(ミサイル垂直発射装置)を装備することにより、艦自体を洋上移動可能なミサイル武器庫として運用することを意味している。つまり、索的から目標補足までの射撃管制をデータリンクによって全てイージス艦に任せ、ミサイルの終末誘導は自艦に搭載した多数のイルミネータによって行うといった完全分業化を実現しているのである。(自前の対空レーダーにより補足目標数は大幅に減るが、自艦のみのミサイル運用も可能) 武器庫艦としては他に『大井』級(同型艦『北上』)打撃武器庫艦があり、『秋月』級とほとんど同型艦ではあるが、こちらは主に対艦対地攻撃に特化したものであり、イルミネータの数などが異なる事で見分けることが可能である。


『時雨』CIC(戦闘情報指揮所)


 「まもなくポイントB(ブラボー)です。」
 「艦長了解。艦隊速度を10ノット。各艦SH−60Kを直ちに発艦、対潜警戒を厳となせ。」 航海長、山田 太郎 二等海佐の報告に対して『時雨』艦長 塚野 涼子 一等海佐は澄んだ良く通る声で命令を発した。 現在、海上自衛隊に限らず、女性自衛官は多い。1980年代に入り国防軍は自衛官の不足からその対処の一環として女性にも門戸を開いたのだ。海上自衛隊内でも最初は陸上基地の事務や主計、艦艇や航空機などの整備任務など、後方支援に限られていた。しかし、1990年代に入り女性幹部も増え、艦載機パイロットは元より、涼子のような護衛艦艦長の任に着くものもいるようになった。
 『時雨』『秋月』『照月』は艦の速力を徐々に落とし、単縦陣を維持したまま「取り舵」を取り、ゆっくりとした速度、大きな半径を描きながら旋回を始めた。敵潜水艦がいる可能性がある以上はその場で留まるのは危険である。また、弾道ミサイル発射を探知した段階ですぐに艦をミサイル迎撃に適した位置まで走らせなければならないため、艦を止めるわけには行かなかった。
 「艦隊司令部からの通信によれば、今だ高麗共和国からの宣戦布告はなされてはいないとの事です。外務省も説得を続けているとの事ですし‥‥、撃ってこないことを祈りたいですね。」 副長 水瀬 忍 二等海佐は薄暗い部屋の中、青く輝く壁の戦闘情報スクリーンを見つめながら言った。
 「そうね‥‥。出来れば戦争なんて起きない方が良いに決まってる。でも、相手がその気になっている以上、こちらも手を抜くわけにはいかない。」
 涼子と忍は共に国防大学50期卒の同期生であった。二人とも最初から護衛艦隊任務一筋に歩んできており、公私共にお互いの信頼も厚い。特に涼子は行動力、状況判断力の高さが買われ、海上自衛隊内でも異例の速さで艦長職にまで昇進している。操艦能力に掛けては男も顔負けで、二年前の米海軍との合同演習では敵艦役の米潜水艦を立て続けに四隻撃沈もしくは浮上降伏に追い込んだ実績があり、米海軍からスカウトに来たほどである。
 「『秋月』『照月』データリンク完了。スタンダードSM−3いつでも行けます。」
砲術長、鈴木 和也 二等海佐の報告が飛ぶ。
 「艦長了解!!」‥‥長い一日に成りそうね‥‥涼子は心の中で呟きながら艦長席コンソールの傍らに置いた写真に目を落とした。そこには涼子の留守を守る優しい夫と、二人の幼い娘の少しはにかんだ笑顔が有った。何よりも家族の幸せを守りたい。いや、命に替えても守って見せると強く誓った。そしてそれは、これから始まるであろう試練に挑もうとする、国防軍将兵全員の思いでも有った。






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2005年4月9日AM 6:30
日本海 ポイントG(ゴルフ)



 今、二つの機動部隊が会合を果たそうとしている。一つは武蔵州神奈川県横須賀を母港とする第一艦隊所属の第一機動艦隊で、装甲護衛艦『大和』、航空護衛艦『鳳翔』、巡洋護衛艦『白根』を中核にし、第一護衛隊所属のイージス巡洋護衛艦『天城』『摩耶』を左舷に従え、第61護衛隊のイージス駆逐護衛艦『霧島』『幸波』が右舷に隊列を組み、その周りを囲むようにして第五護衛隊の駆逐護衛艦『雪風』『陽炎』『不知火』『夕雲』『疾風』『舞風』が配置されている。それぞれの艦の相対距離は500メートルといったところか。
 もう一つは九州長崎県佐世保を母港とする第二機動艦隊に舞鶴の航空護衛艦二隻他を加えた部隊であり、中央の隊列にイージス装甲護衛艦『武蔵』、原子力航空護衛艦『鳳翔』、航空護衛艦『翔鷹』『蒼竜』、イージス巡洋護衛艦『鞍馬』。左舷に第二護衛隊所属のイージス巡洋護衛艦『古鷹』『青葉』『最上』、右舷に第六二護衛隊のイージス駆逐護衛艦『金剛』『磯風』『遥』が配置され、その周りを第六護衛隊イージス駆逐護衛艦『浦波』『磯波』『綾波』第七護衛隊『夕霧』『浜霧』『瀬戸霧』が囲んでいる。また、各機動部隊の前衛には第一、第二潜水艦隊所属の『伊−500』級潜水艦9隻がいて、敵潜水艦に対して警戒体制を敷いていた。そしてこれら機動部隊を総括統制する、連合護衛艦隊旗艦、航空装甲護衛艦『飛鳥』が新鋭打撃武器庫艦戦隊の4隻『大井』『北上』『酒匂』『富士』を引き連れながら、追いすがるように合流していく。
 この他、オペレーション「ロメオ」支援艦隊として、横須賀第二輸送揚陸隊より派遣された三隻の強襲揚陸艦を中核となす、舞鶴の第三艦隊が後方50浬に控えており、機動部隊が制空制海権を敵から奪取したのちに、敵本土沿岸に突入することになっている。
 「全艦、陣形配置完了。現在、艦隊速度18ノット」
 「偵察衛星からの索敵情報によれば、現在、敵、東海艦隊、釜山を出撃の模様。敵艦隊の陣容、現在解析中。」
 『飛鳥』CDC(戦闘情報統括指令所)では、艦隊指揮のためのあらゆる情報が解析され、「メインパネル」と呼ばれる正面上部の大液晶スクリーンに集約、表示されている。『飛鳥』のCDCとは他艦でいうCIC(戦闘情報指揮所)の規模を更に拡大し、艦隊全体を指揮するのに特化されたデザインになっている。20畳ほどの部屋の中に20名程が配置されており、通信、砲術、航海、電測など、各部門のオペレーションコンソールが「メインパネル」を正面に見上げる形に配置され、後方の一段上がった場所に艦長、副長のコンソール、さらに後方の最上段に艦隊指令長官席が設けてある。これを「トップダイアス」と呼んでいる。北岡 文雄中将はトップダイアスのシートに長身の体躯を沈めるとメインパネルを睨め付けると、黙ったままその頭脳をフル回転させていた。



2005年4月9日 AM 10:00
『飛鳥』CDC



 メインパネルスクリーン右上に表示されていた黄色の文字で表されていた『DEFCON2』表示が赤い文字の『DEFCON1』に変わり、緊急通報を知らせるブザーが室内に二回響き渡る。
 「自衛艦隊司令部より緊急伝!!」通信士、川島 悠美 一等海曹が報告を続ける。
 「フィリピンでの高麗共和国との第三次交渉決裂!!外務次官、アジア太平洋局長を含む10名が拉致され消息不明。連合護衛艦隊は直ちに行動を開始せよ!!」
篠丘は上段の北岡を振り返る。一瞬の沈黙の後その口が開かれようとした時、絶叫にも近い電測士の報告が飛んだ。
 「SPY−1レーダーコンタクト!!旗対嶺はじめ複数のミサイル基地から弾道ミサイル発射反応有り!!」



同時刻
『時雨』CIC(戦闘情報指揮所)



 「SPY−1レーダーコンタクト!!旗対嶺など、複数のミサイル基地から弾道ミサイル発射されました!!現在補足目標15。高度500、510、530加速して上昇中。方位、010から080の間に遷移。」 電測士、小島 大樹 海士長が報告する。
 「砲雷長!準備出来次第、直ちに迎撃開始!!、航海長!艦隊を適正位置に移動せよ!!」 艦長 塚野 涼子が矢継ぎ早に二つの命令を飛ばすと、阿吽の呼吸で副長、水瀬 忍が操艦命令を出す。
 「両舷前進強そーく、艦隊進路060!艦隊速度、第一戦速!!」
 「イルミネータ作動、目標ロック。初期迎撃、弾種ABM−01、発射弾数30発、『照月』5番VLS開放。あと一分で射程距離に入ります。」



『照月』CIC(戦闘情報指揮所)



 『両舷前進強そーく、艦隊進路060!艦隊速度30ノットへ増速』
 『イルミネータ作動、目標アルファからオスカーまで順次ロック。目標1に対して二発割り当て。初期迎撃、弾種ABM−01、発射弾数30発、「照月」5番VLS開放。あと一分で射程距離に入ります。』
 今、防空武器庫艦『秋月』『照月』のミサイル兵装は、旗艦『時雨』からのデータリンクによって完全に統制されていた。『時雨』CICから発せられる情報や命令などはCIC内に設置されているスピーカや情報表示ディスプレイからから知ることができるが、一旦、統制艦との兵装統制が開始されれば、目標補足・追尾・ミサイル発射に至るまで、等の砲雷系統はリモートコントロールされてしまうため、操艦の他に乗員のなすべきことは少ない。しかし、『照月』艦長をはじめ、その乗組員達が気を抜くことなど一切無かった。
 「両舷前進強そーく!第一戦速、進路060。」 『照月』艦長 前田 弘 一等海佐は命令を発すると、深めに被ったキルト地にミサイルを抱えた狼のマスコットが刺繍された略帽のツバを右手で直しながら情報表示ディスプレイを睨み付けていた。
 前田は46歳。神奈川県藤沢市の国防軍隊員住宅に一つ年下の妻と、小学校に通う三人の娘達を残してきている。身長188センチの長身と鍛え上げられた体格を持つが、切れ長の細い目、大きな鼻、一文字に閉じられた口はまるで慈悲深い仏像のような品格を持っている。家庭を愛し、厳しくも部下の信頼厚い人望の持ち主である。
 「艦長、迎撃ミサイル発射開始まであと30秒、目標、現在高度50(5000メートル)速度6マッハ。システム・オールグリーン」
 「艦長了解。そのまま状況把握に努めよ」
 「艦長、ABM−01発射開始されました!!」
 鈍い衝撃と共に轟音を立てながら一秒間に一発の間隔で、全長7m、直径2mの白いミサイルが雲ひとつ無い蒼空に打ち上げられていく。 艦対空ミサイル (SAM:Ship-to-Air Missile)の一種であるABM−01は弾頭重量600キログラム、固体ロケットエンジンを搭載し高度10000メートルまで1分で駆け上がる事ができ、母艦の誘導用レーダー(イルミネータ)から目標近辺まで中間誘導され、自機のレーダーが上昇加速中の弾道ミサイルを補足すると自立航法によって目標に向かって突進し、近接信管によって目標の2〜30メートルにまで近づくと信管が作動し弾頭に点火、爆発すると同時に弾頭内部の1万個に及ぶ直径20ミリの鉄球弾子が爆風と共に目標に襲い掛かることになる。



『時雨』CIC(戦闘情報指揮所)



 「時かーん!!」ABM−01発射から2分が経過し、戦闘情報ディスプレイを見つめながら砲雷長が報告する。
 「目標、八基ロスト!迎撃を外れた七基は以前飛翔中、弾着予測地点、新潟、東京、横須賀近辺に集中!!高度15000から降下軌道に移りました。」電測士が叫ぶように報告すると、砲雷長 鈴木 和也 二佐が射撃指揮コンソールを叩きながら報告する。
 「スタンダードSM3発射準備完了!!発射弾数14オールグリーン!!」
 「スタンダード発射始め!!」涼子は眦を決して叫んだ。
 「打ちー方始めっ!!」



2005年4月9日 AM 10:37
『飛鳥』CDC



 「本土の被害状況知らせっ!」悲壮な表情で『飛鳥』艦長 篠丘 利之 一等海佐は言った。 イージス巡洋護衛艦『時雨』率いる防空武器庫艦隊は、敵本土より発射された15発の弾道ミサイルに対して二次に渡る迎撃によって、12発の撃破に成功したが、打ちもらした二発が航空自衛隊小松高射隊の迎撃網をも突破し、一発は日本海に落ちたが一発は信越州新潟県に有る高浜原子力発電所からわずか三キロメートルの位置上空600メートルの高度に達した時点で白い霧状の気体を噴出させた後、弾頭に起爆した。その弾頭は核弾頭ではなかったが、これは燃料気化爆弾(Fuel-Air Explosive, FAE )であった。爆発は強大な衝撃波と共に、12気圧に達する圧力と3000度の高温を発生させ、この弾頭の加害半径は1000メートルにも及んだ。核攻撃を危惧して政府は、この前日から予め市民を公共の核シェルターに非難させていたが、起爆寸前まで避難誘導に当たっていた警察官、自衛隊員、消防局員や市の職員、そして様々な理由で退避が遅れた千名余りの人命が爆風や高熱、建物の倒潰や火災などによって失われた。火災による延焼や小さい被害では窓ガラスの破損など、実際の被災エリアは実に半径四キロメートルに及んだのである。高圧送電線の溶断などの被害は出たが、幸いにして原発はその厚いコンクリートに守られ無事であった。

 「そうか…。核では無かったのだな。」北岡は少し落ち着きを取り戻しつつ呟いた。
 「敵本土のミサイル発射地点の詳細がつかめました。『大和』『武蔵』、RGM-109H タクティカル・トマホークに諸元入力を始めたとの報告が入りました。」
 「作戦幕僚、まずは制空、制海権を取る。敵、東海艦隊の位置ならびに規模を知らせ。」北岡は通信士の報告を聞くと、長官席の左側、作戦幕僚席の 樽見 良友 海准将に言った。樽見は事前に偵察衛星から得た情報を元に既に戦術を練り上げていたようだで澱みなく答えた。
 「敵、東海艦隊は現在位置、本艦よりの方位260、距離、320浬に対峙しています。艦隊規模は巡洋艦クラス12、駆逐艦クラス30、巡洋艦はおそらくソレブンヌイ級、ワリャーグ級ミサイル巡洋艦でしょう。潜水艦も多数潜んでいると考えられます。敵艦隊は空母を持ちませんから、空軍基地の航空支援を受ける必要性から、航空機の支援可能域を離れることは出来ないでしょう。敵空軍の主力はMig−29、Mig−21の制空戦闘機とSu−24戦闘爆撃機ですね。我方は艦載機でファイタースイープを実施し、敵の哨戒網に穴を空けた後、事前にワイルドイーゼル隊にレーダーサイトや対空基地を殲滅させた後、攻撃機を突入、空軍基地を潰します。」
 「よし、艦長!艦隊進路敵本土に向け偏進、取り舵20度。艦隊速力、第一戦速に上げ!!作戦参謀!各航空護衛艦は艦載機発艦準備、制空、攻撃隊編成は作戦骨子に従い、各戦隊長に任せる。」
 「艦長了解。取り舵20度、第一戦速。」
 「とーりかーじ!!」






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2005年4月9日 AM 10:40
航空護衛艦『翔鷹』ブリーフィングルーム



 ここは航空護衛艦−空母−の言わば作戦指令所にあたる部分である。パイロット達にに作戦通達などがブリーフされる時、この部屋が使われていた。艦によって多少の差があるが、約、20畳の空間の中に40名ほどのパイロット達がブリーフィングを受けれるようになっている。 航空護衛艦『翔鷹』は国防軍始まって以来初めて採用されたロシア製艦艇ではあるが、電子機器からエンジンに至るまでの偽装関連のほとんどは国産化されており、1992年4月に竣工、艦載機も三菱重工生産による三菱スホーイF/A−37AまたはB(戦闘迎撃機)×50機のほか、SH-60K(対潜ヘリ)×6機、UH−60J(救難ヘリ)×3機、三菱E-3J(早期警戒機)などを搭載している。基準排水量53,500トン、満載排水量66,500トン、全長304.5メートル、全幅38メートル(飛行甲板を含めて72メートル)、喫水10.5メートル、飛行甲板面積14,700平方メートル。カタパルトは持たず、艦首に向かって反り上がったスキージャンプ勾配を持つ。機関はCOGAC(高速時、高速用ガスタービンと巡航用ガスタービンとを併用)式ガスタービン8基は総出力205,000馬力を発生し、最大速力:33kt。艦の乗組員は二千名を超えるものとなった。艦の性質上、主に艦隊防空や攻撃機や哨戒機の護衛任務に付く事が多い。
 『翔鷹』に配備されている戦闘機は厚木基地第三航空群204航空隊所属のF/A−37(A単座、B複座)であるが、艦上運用時の指揮系統は、『翔鷹』飛行隊隊長に帰属する。
 『翔鷹』の戦闘航空隊44機60名のパイロットを束ねるのは、嵯峨野 秀樹2等海佐。36歳にして二児の父、妻は同じ海上自衛隊に勤務している。192センチの長身、鍛え上げられた体躯を持つが、一見すると線が細そうに見える甘いマスクに口ひげを蓄えている。常在戦場をモットーとし、任務中は部下にも厳しいが公私を問わず面倒見がいい。湾岸戦争や魚釣島紛争など実戦経験も豊富で上司の信頼も厚い。
 「我が204航空隊はこれより『赤城』『倉竜』攻撃隊の発艦にさきがけ、戦闘空域の敵戦闘機掃討、ならびに攻撃隊護衛の任務に付く。各戦隊編成には掃討任務に第一中隊、護衛任務に第二中隊を割り振る。第一中隊は編成20機を4機5小隊。中隊長はショウ(上村 翔 三等海佐)、呼出符丁はブリースト。第二戦隊中隊長ダック(松田 敦 三等海佐)、呼出符丁はワイバーンだ。各中隊長は解散3分以内に飛行編成を私に報告せよ。ブリーストは敵艦隊上空に展開中の航空機を掃討する。当海域上空には空自のAWACSが警戒飛行中である。呼出符丁はセントレス01。発艦後はセントレスの指揮下に入れ。ワイバーンは『飛鳥』統制指揮下に入る。では準備に入れ」
 「了解!!」パイロット達から返答が返された後、室内は各中隊長の編成を告げる声とそれに返事を返す声で沸き返った。あわただしく部屋を飛び出していく足音の中で一際通る声が響いた。「ルージュ、ウェンディ!!ちょっと待て。」
 「はい?」緋菜子が振り向きざま答える。沙紀も少し面倒くさそうに振り向いた。
 タックネーム・ルージュ、楠瀬 緋菜子とウェンディ、桐屋 沙紀は航空自衛隊から交換派遣で航空護衛艦『瑠鳳』で母艦訓練任務を終えた後、本来所属する航空自衛隊小松基地204飛行隊のイーグルドライバーに戻るはずであったが、特例としてそれまで乗っていたF−4EJ改からF/A−37Aに機種転換をした後、『翔鷹』に臨時転属命令が下ったものである。しかし、実際は小松航空団指令の意向が強く反映したらしいというのが二人の共通する考えだった。いままで何かと実績も残してきた二人ではあったが、男女同権をうたうこのご時勢にあって、もはや時代遅れの男尊女卑を主義とする小松航空団指令 刈谷崎 空中将にとっては目の上のタンコブでしか無かったのだ。

 「俺は出来ればお前達を出したくは無かった。」
 ブリースト中隊、タックネーム『ショウ』こと上村 翔 三等海佐は二人の顔を交互に見つめながら言った。上村は緋菜子達が『瑠鳳』に転属されてからというもの、F/A−37A機種転換訓練を飛行教官として二人の指導にあたってきた。実は上村には緋菜子、沙紀と同年代の妹がいた。しかし、2年前に発生した高麗空軍機による高浜原発爆撃未遂事件の際、撃墜されたMIG−29が自宅付近に墜落し、家族もろとも失っている。上村は二人に亡くしてしまっていた妹達を重ねて見ているところがあった。
 「え?」緋菜子は上村の悲壮な表情を見て少し驚いた。
 緋菜子達の知る上村は、いつでも沈着冷静で、訓練中、緋菜子が例えミスをしても怒ること等無く、淡々と、しかも、的確にそれも理解しやすいように、原因や対処法を教えてくれることで必要以上に訓練生にプレッシャーを掛ける事などしないし、何よりもクールさの中に安心感を感じることさえ出来た。この人に自分のバックを守ってもらえば絶対に安心だなとも思える。
 勿論、緋菜子は自分達が撃墜した敵機が上村の家族を奪ってしまったことなどは知る由も無かった。そして、その事故が上村の性格を変えてしまったことも……。
 「いや…、いいか?お前達は何が何でも生きて帰って来い。無論他の隊員たちもそうだが。護衛任務といっても戦闘は苛烈を極めるだろう。敵ものに物狂いになって掛かって来る。戦力差があっても油断などするな。無理だと思ったら構う事無い、こちらは敵機よりも優速だ。バーナーを焚いて真っ直ぐ逃げろ。逃げて体制を立て直せばいい。」
 「それでは護衛になりませんよ。大丈夫です。やれます。」
 緋菜子は訝りながら言った。なぜ突然、上村がそんなことを言ったのか解らなかった。沙紀は少し俯き加減で二人の会話を聞いている。緋菜子は、自分を含めて他の人間には尖った物言いしかしない沙紀が、上村に対しては以外に素直になっていることを感じていた。何か知っているのだろうか?それとも…も、もしかして、好きなのか?
 「…わかってはいるが、良いか?必ず生きて帰って来い。これは命令だぞ。」
 「はいっ!!有難うございます。私達だって死にたくは有りません。必ず帰ってきます。」緋菜子は敬礼しながら言うと、自分の左側に居る沙紀を横目でちらりと見やる。驚いたことに敬礼している。それも潤みがちの真っ直ぐな目で上村を見つめて。
 「ルージュ、行くぞっ!!」ふいに沙紀に手首をつかまれ、仰け反りながら部屋を引っ張り出された。
 「ちょ、ちょっと!!」

気が付いた時には沙紀は狭い通路を装具室に向かって走り出していた。緋菜子はあわててそれを追う。肩まである彼女のポニーテールが体の動きに合わせて左右に振れている。
 「ねぇ、ウェンディ!あなた何か知ってるの?それとも…」沙紀に追いつくと緋菜子は彼女の肩を掴んで言った。
 「うるさいっ!!あんたには関係ない!」沙紀は言い放つと装具室に飛び込んでサバイバルジャケットを着込み、「Wendy」と白地で書かれたグレーのヘルメットを掴むとさっさと出て行ってしまう。
 「もう、何でああなのかなぁ」緋菜子は諦めた様に呟くと、急いで自分の装備を装着すると再び後を追った。



2005年4月9日 AM 11:20 
日本海上空 エリアE(エコー)
航空自衛隊 EYS−101 AWACS



 早期警戒管制機EYS−101は日本航空機産業株式会社が開発した国産4発ジェット旅客機を改修した機体で、機体全体がグレーに塗られ、形状はYS−101−200ER(最大350人乗り)とほぼ同じであるが、キャビン内部は電子機器類で占められていて、自身のレーダーをはじめとする各種の無線設備が発射する強烈な電磁波から電子機器と乗員を防護するため胴体には窓が一つも無い。また、胴体上部に円盤型の直径9.14m、厚さ1.83mのロートドームが装備されている点が大きな特徴である。胴体の長軸に沿って胴体上下に無数のUHF及びVHF通信用ブレードアンテナが配置されている。両方の主翼端には機体後方へ突き出した棒状のHF通信用プローブアンテナが配置され、胴体尾部には、JTIDS(統合戦術情報伝達システム)アンテナが納められたフェアリングがある。戦闘空域もしくは警戒空域において、敵軍・友軍を含むあらゆる空中目標を探知するのみならず、分析・友軍への指示・管制を行う能力を持つ。
 EYS−101戦術航空管制士を勤める鈴木 正幸 二等空尉はレーダースコープ上にブリースト編隊を認めると編隊長機・ブリースト1・1に対して通信回路を開いた。
 「ブリースト・リーダー ディスイズ セントレス01 ハゥドゥユゥ リード?」
 『セントレス01、ディスイズ ブリースト・リーダー、これより作戦空域まで誘導を請う。』
 「ラァジャ、ブリースト・リーダー。貴編隊を誘導する。 ボギー(敵機)ヘディング020 エンジェル30(高度30000フィート)スピード500ノット、機数は約30が展開中。エンジェル40バイゲイト(高度40000フィーとまでアフターバーナを使用して上昇)こちらのデータリンクに従え。」
 『ブリースト・リーダー ラァジャ。ヒァウィゴー!!』
 『ツー』 『スリー』 『フォァ』 『ファイフ』 『シックス』 『セヴン』 『エイト』
 ブリースト01編隊は二つのフィンガー・フォーと呼ばれる編隊を組み、ブリースト1〜8までの呼出し符丁与えられている。編隊長機はタックネーム『ショウ』こと上村 翔 三等海佐、二番機、『コウ』秋元 康 一等海尉、三番機『ダック』澤井 祐次 二等海尉、四番機『ゴジラ』梶山 秀雄 二等海尉、五番機『アイアン』中村 鉄男 二等海尉、六番機『ジョウ』和久井 譲 三等海尉、そして、七番機に緋菜子、八番機のポジションに沙紀が就いていた。
 『ルージュ、ウェンディ!遅れるなよ!!ナウ バイ ゲイト!!』
 「セヴン!」『エイト』緋菜子のレシーバーに上村からの激が飛ぶ。緋菜子は六番機を右斜め前方の位置に見据え、編隊を崩さないよう注意を注ぎながらスラストレバーをガチンとメカニカルストップに当たるまで前方に押し込んだ。ドン!という衝撃と共にシートに身体が押し付けられると、F/A−37Aの機体がグングン加速されていく。緋菜子の編隊の数百マイル先には既にワイルドウィーゼル、すなわち電子戦攻撃機が進出しているはずで、敵のレーダーを攪乱してくれている筈である。高度4000フィートまで上昇したあと、中射程のミサイルAAM−5空対空ミサイルを一機あたり四発を叩き込むことになっている。
 AAM−5・正式名称02式空対空誘導弾。海空自衛隊と三菱重工が共同開発したARH(アクティブレーダーホーミング)と赤IRH(IR;赤外線ホーミング)を組み合わせた画期的な複合ホーミングミサイルで、ミサイル発射後、発射母機が最初から最後まで敵機をロックオンしておく必要がない、いわゆる撃ちっ放しが可能で、発射後すぐに回避行動をとることができる。また、同時多目標攻撃も可能であり、F/A−37の場合、兵装モードを中射程モードに切り替えておくと、四機までの敵機をレーダーロックすると各ターゲットのデータはそれぞれのミサイルに自動転送され、発射すると中間誘導が慣性誘導と発射母機やAWACS機からのアップデートで行われ、最終誘導がミサイル自身の搭載レーダーと併用して敵機から発せられる赤外線を探知するため、的確に敵機を捉えることが出来る。ECCM能力(対電子妨害対抗能力)にも優れており、仮に発射後ジャミング(電波妨害)を受けた場合、その電波の発信源へと誘導される。またチャフによる妨害にも強い。最大射程距離は110キロメートル、発射前からレーダーを起動させておく「撃ちっ放し」モードで35キロメートルとなっている。

 ブリースト・リーダー上村は、機が高度4000フィートに達すると戦術情報ディスプレイに目をやった。ディスプレイにはAWACSからの情報が自機位置から見たものに置き換わり、AAM−5の射程に入りつつ有る事が示されている。ターゲットの割り振りは既にAWACSによって管制されており、ヘッドアップディスプレイ上のレティクル(標準環)が赤く変われば、サイドスティック(操縦桿)のトリガーを引絞るだけでミサイルはそれぞれの敵機目掛けて飛んでいくはずである。 
「全機、マスターアームON、俺のコールでAAM−5をシュートする。レディ!!」
『ツー』 『スリー』 『フォァ』 『ファイフ』 『シックス』 『セヴン』 『エイト』
 各機から了解を告げるコールが入ると同時にターゲットロックを知らせる甲高いブザー音とレティクルが赤く変わりシュートキーが示された。
 『ブリースト1・1 ホット フォックス ワン!!』
緋菜子は上村からのAAM−5発射のコールがレシーバーから聞こえると同時にサイドスティックのトリガーを4回、引絞り叫んだ。
 「セヴン、ホット フォックス ワン!!」 四発のミサイルが次々に機体を離れ、軽くなった機体が浮き上がろうとするのを巧みに制御する。これで八機合計32発のミサイルが敵編隊に向ったことになる。
 「当たれ…、当たれ…」緋菜子は無意識に呟いている。
 『ビーーーーーッ!!』今度はこちらがミサイルロックされた警報がレシーバーに鳴り響く。
 『ブレイク、ナウ!!』同時に上村からの編隊解除のコールが入る。編隊を解散してしまえば、これからは自分が編隊長として八番機「ウェンディ」を左翼に従えてACM(空戦機動)を取らなければならない。緋菜子はそれまで一緒に編隊を組んでいた機が右にブレイクするのを見やると自分達は左に散開しようと決めた。
「ウェンディ!!ブレイクレフト!!」
 沙紀の機から無線のトークボタンを続けて二回鳴らすジッパーコールが聞こえると反射的にサイドスティックを左へ倒した後、手前に引き付ける。ぐうっと下向きの重力が掛かり、シートに身体が押し付けられる。チラッとバックミラーに目をやると、ピッタリと追従する沙紀の機体が見えた。






−4−
2005年4月9日 AM 11:55
高麗半島 日本海元山沖上空



 航空護衛艦『鳳翔』所属のスペクターフライト ワイルド・ウィーゼルチーム、F/A−18GJ4機は『翔鷹』所属のブリースト編隊が敵のMig−29、30機余りを早々に撃退したこと、ワイバーン編隊が敵艦隊に対艦ミサイル攻撃を開始した情報をAWACSから受け取ると、ECM(電波妨害)を解除し、わざと敵に発見されやすいよう緩慢な飛行を続けた。これは敵本土沿岸に配置されているはずの地対空ミサイル拠点のレーダーに自機をロックさせる事が目的である。ワイルド・ウィーゼル機の任務は、自機のレーダーで目標とする敵の対空防衛網の注意を自分に向けさせ、ワイルド・ウィーゼル又は僚機が正確に敵防空施設を目標として破壊することができるよう敵のレーダー波をその発信源まで追跡し、対レーダーミサイルAGM−01愛称スーパーシュライク・正式名称01式対レーダー誘導弾を使用して敵対空レーダーや敵レーダーサイトを攻撃することにある。しかし、敵レーダーに補足させるということは、敵対空レーダーを潰す前に自分が撃墜されることも十分有りえるという実に過酷な任務である。
 今、編隊は高麗半島、元山(ウォンサン)から沖合い30Kmほどの洋上2000フィートを沿岸に沿って南下していた。
 「まだ反応は無いか?」
スペクター編隊編隊長 春原 健二 二等海尉タックネーム『ハル』はRIO(後席レーダー員)水落 一馬 三等海尉タックネーム『カズ』に言った。
 「ネガティブ。事前の衛星情報ではこの辺りに高射部隊が展開している筈な…おっと!レーダー照射を受けました!!ヘディング010、目標…こいつは凄い!!奴等、八つも持ってやがる!!」
 「よし!野郎ども、みんなで仲良く獲物を分けるぞ!!ブリーフ通り展開する。ブレーク・ナウ!!」
 「敵、ミサイル発射!!」
 春原は自機を敵ミサイルの発射位置、海岸線の方向に向け急旋回させながら機を急降下させた。
 「カズ、スーパーシュライクまだかっ!」
 「データ入力完了!発射準備よし!ハルさん行けます!!」
 「スペクター1・1 ホット フォックス フォア!!」春原はトリガーを引絞ると同時にチャフをばら撒き、ECMを最大に発生させながら機を反転させた。ミサイルを撃ったら後はとにかく逃げるしかない。 AGM−01は一旦発射されると敵レーダー波に向って飛んでいく。もし、敵がレーダー照射を止めた場合でも、レーダー照射発生源を座標として記憶しており、慣性誘導を行うことでそれまでの対レーダーミサイルの弱点を克服している。
 「ハルさん、ミサイル来ます!!」
 「わかってる!!」
 「スーパーシュライク弾着まであと20秒!!」
 「ぐうっ!!」春原は敵ミサイルのロックを外そうと考えうる機動を繰り返すうち、ミサイル警報が消えたことに気が付いた。
 「ハルさん!やりました。敵レーダー撃破!!敵ミサイル迷走します。他の機も破壊に成功したようです!!」
 「ふうっ、任務終了。RTB(リターン トゥ ベース)」
 『ツー』 『スリー』 『フォア』






−5−
2005年4月9日 PM 0:05
装甲護衛艦『大和』CIC



 「トマホーク、準備どうか!?」
 「タクティカル・トマホーク諸元入力完了オールグリーン。発射準備よし。」
 「対艦誘導弾!?」
 「SSM−4発射準備よし。」
 「対空誘導弾!?」
 「スタンダード、短SAMオールグリーン!」
 「主砲」
 「〇二式徹甲弾、三式弾装填よし。主砲火器管制オールグリーン!」
  『大和』CICでは、艦長 有賀 進 一等海佐の問い掛けに対して、次々と砲術、砲雷各部門の報告がなされていく。他の艦でも同様の光景が見られるはずである。現在、敵艦隊の展開する海域の制空権はすでに日本側が押さえている。まさにこれから、制海権を奪取するべく艦隊戦が展開されようとしていた。有賀一佐は42歳、元帝国海軍有賀幸作少将の孫にあたり、父親、秀作もすでに退官したが海上自衛隊の幕僚幹部まで勤めたいわば海の家系を継ぐものであり、祖父、父、息子と一度ならず「大和」艦長職を経験していた。
 「敵艦隊までの距離70(70000メートル)速度20ノットで我が方との距離を詰めています。会敵予想時刻0145(マルヒトヨンゴ)」 『大和』電測士、桜庭 雄平 二等海尉が報告する。
 「既に敵も対艦ミサイルくらい撃ってきてもいい距離だが…。」
 「まだ兆候は有りませんね。敵の対艦誘導弾の精度の問題ではないでしょうか?ほとんどが旧ソ連製の劣化コピーとの情報も有りますし。彼らの艦隊の規模からも考えて無駄球を出したくないのかも知れませんね。」有賀の言葉に『大和』副長、能美 真治二等海佐が答える。
 「奴等にしてみればミサイル飽和攻撃しか我が艦隊に対抗する手段は無いはずだからな。対潜はどうか?」
 「敵潜水艦らしきものはまだ探知されていません。」
 「変温層にでも潜まれていては厄介だ。さらに対潜警戒を厳となせ。」
 「了解」
 二人の会話をさえぎる様にCIC室内のスピーカーが鳴った。

 『こちらは飛鳥艦隊司令部である。これより我が艦隊は日本海側に位置するすべての敵陸上基地に対して巡航ミサイルによる一斉攻撃を実施した後、艦隊速力30ノットで敵艦隊殲滅に向かう。現在東シナ海において米海軍3・1および3・2任務部隊が展開、彼らは制空、制海権を奪取し主要沿岸基地に対して総攻撃を開始した旨の報告が入った。各員、奮闘努力せよ。』
 「ブリッジより報告。『飛鳥』のマストにZ旗が上がりました。」

 Z旗とは、船同士の意思疎通のために用いる国際信号旗のひとつで、アルファベットの"Z"の文字を示す信号として用いられる他、単独で「私は引き船が欲しい」、漁場では「私は投網中である」の意を示す信号としても用いる。しかし、大日本帝国海軍では全艦隊の士気の高揚を図るため、「皇国の興廃此の一戦に在り、各員一層奮励努力せよ」の文面が連合艦隊向け信号簿でこのZ旗に割り当てられており、1945年12月8日の米海軍迎撃時に起因した呉沖海戦、1950年10月3日に生起したドイツ空海軍との最終決戦となったスケラディック海峡海戦など、重要な艦隊戦の際にZ旗を掲揚することが慣例化し、国防軍海上自衛隊となった今でもそれが受け継がれていた。発祥は、"Z" がアルファベット最終文字である事から「後はない」という決戦の意思として用いたとの説がある。
 「『飛鳥』より入電、トマホーク発射始め!」
 「祖国の興廃此の一戦に在り、各員一層奮励努力せよ、か。」有賀は呟くと眦を決した。
 「よし、打ちー方始め!!」
 「トマホーク弾数20、打ちー方始め!!」砲雷長佐々木 雄一郎二等海佐は復唱すると、ミサイル管制コンソールにあるトリガーを引絞った。同時にコンソールディスプレイに表示されている64個のVLS状態表示の内、1〜20番までの光の色が一秒ごとに次々とグリーンからイエローに変わっていく。色が変わるたびに発射の振動がCICの床を痺れされた。
 「全弾発射完了。トマホーク順調に飛翔中!」
 「艦長了解!両舷前進強そーく。進路そのまま速力30」
 「両舷前進強そーくヨウソロ。速力30」

 この時、旗艦『飛鳥』の装甲ランチャーから8発、装甲護衛艦『大和』『武蔵』武器庫艦『大井』のVLSからそれぞれ20発ずつ合計68発のタクティカル・トマホークが発射された。 国防軍海上自衛隊で使用されているトマホーク巡航ミサイルは、新三菱重工業でライセンス生産されていて〇三式巡航対地艦誘導弾として2003年に制式化された。本体全長(ブースター除く)5.56メートル、翼幅2.67メートル、直径0.52メートル、速度895km/hでエンジンは国産IHIパワープラント製F415−IHI−405型が採用されており発射の際は固体推進ロケットブースターを使用して飛翔する。バリエーションとして、地上発射型、艦上発射型、潜水艦発射型、空中発射型が有り、またそれぞれミッションにより弾頭の種類や誘導方式が選択できるようになっている。ここで使用されたトマホークは455キログラムの通常弾頭型、166個の弾子を搭載する子爆弾型、気化爆弾型が織り交ぜられて発射され、誘導は慣性誘導、GPS、前方監視カメラ、衛星リンクによる複合誘導方式が選択されていた。これらのトマホークは敵艦隊の迎撃を防ぐため、高度を50フィート以下に押さえ、亜音速で目標近くまで飛行したあと突入寸前でポップアップし、設定された目標を確認し正確に突入するはずである。


2005年4月9日 PM 1:15
装甲護衛艦『飛鳥』CDC



 「SPY−1に感!!敵、対艦ミサイル発射探知!!探知数300を超えます!!」
電測士 篠坂 唯子 三等海尉が叫びに近い報告を発した。唯子はコンソールのキーボードを叩くと次々と目標をプロットしていく。同時にCDCの「メインパネル」には戦術情報が目まぐるしい速さで表示されていった。対空レーダーが探知した高麗側の対艦ミサイルは総数328発であった。
 「全艦、対空ーう戦闘用意!!」
 「各艦に目標割り振り完了。スタンダードSAM諸元入力開始。」
 「『時雨』に伝達、『秋月』『照月』スタンダード全弾発射用意!!」
 「目標ロック完了次第迎撃始め!」
 メインパネルには夥しい輝点が移り航跡が赤い実線、予想進路は黄色い破線で示されている。その輝点がロックオンされるごとに次々と円で囲まれていく。それらは『飛鳥』に搭載されている富士通製セントラルコンピュータによって自動的に艦隊各艦に割振られているはずである。
 「オールステーション インターセプト スタート!!」

 各艦が一キロメートルほどの間隔を取る防空輪形陣から次々と白いスタンダード艦対空ミサイルが舞上がっていく。中でも防空武器庫艦である『秋月』『照月』の前甲板は一秒ごとに発せられる凄まじい光と煙でその光景はさながら活火山の噴火が連続して噴き上がるようだ。北岡、篠丘他、『飛鳥』CDCにいる幹部達は迎撃の様子をメインパネルを通してただ息を飲んで見守るしかなかった。現代における水上艦による戦闘はミサイル技術が発達により、通常互いに遠距離からの対艦ミサイルの撃ち合いから始まる。第二次世界大戦までの艦砲による撃ち合いなど現代戦においては発生することは有り得ないとして、世界広しといえど戦艦という艦種を保有する国は、アメリカ合衆国と民主日本国、ロシア共和国(但しロシアの唯一1隻の戦艦『ワルシャコフ』は90年代に入ってからはほとんどドックから出たことは無く、日米海軍戦力に対する対抗意識を満足させるために所有しているという形だけ維持しているに過ぎない)の三国合計9隻のみである。
 「艦長!敵ミサイル弾種の解析がほぼ完了しました。レーダー誘導と赤外線誘導のミサイルを織り交ぜているようです。レーダ誘導波の解析は既に完了。ECM最大出力掛けます。」 唯子はコンソールのエンターキーを叩くと篠丘に報告した。篠丘は「艦長了解」と頷くと唯子の対応能力の高さに改めて感心した。丁度一年前、普段はおっとりしていて頼りなさ気に見えるメガネを掛けた26歳の若い女性士官を篠丘が選任したとき、シュミレーションを含めた演習の成績書類を参考にするしかなかった。その書類上で「特A」のランク付けをされた彼女を面接したときは「本当に大丈夫か?」と訝ったものだが、部下として付き合ってこの一年、いざ、状況が開始されると開花する唯子の変わりようには誰もが驚いたものだった。
 「しかし、300を超えるミサイルを一斉に発射する力を持っていたとは…。こちらも多少の被害を覚悟しなければならん。」北岡は篠丘を一瞥すると言った。
 「敵は沿岸に配備したシルクワーム(対艦巡航ミサイル)も同時に発射したようです。西側が危惧していた旧ソ連のミサイル飽和攻撃が具現したといえますが、我が方はそれを超える迎撃能力を持ちます。防空システムが完全に機能すればの話ですが……。」
 「インターセプト5秒前!!」
二人の会話をさえぎる様に唯子の声が響く。
「4、3、2、1、マークインターセプト!!」 
 メインパネル上では敵ミサイルを表す輝点がたちどころに消滅していく。しかし、それでも35個の輝点が消えることなく輝いていた。
 「各艦、個艦防空戦闘始め!!」北岡が叫ぶ。
 「各艦に伝達、近接防御、個艦防空戦闘始め!!シースパロー攻撃始め!CIWS作動オールグリーンよし!!」
 「ECM最大出力。IRフレア発射!!チャフロケット発射始め!!」
 「着弾まであと60秒!!」 砲雷長 能実らの命令、復唱が次々と飛び交うと共に、艦外ではIRフレア −攻撃してくるミサイルの赤外線誘導装置を欺瞞するための熱光源− が各艦上空で花火のように炸裂し、チャフロケットランチャーからはアルミニウム箔やワイヤー等の入ったコンテナを空中に射出してレーダー誘導ミサイルのレーダーロックを自艦から外そうと試みる。同時にVLSや短SAMランチャーからはシースパローやその改良型ESSMが次々と飛翔する。その数45発。敵ミサイルの多くは航空護衛艦、装甲護衛艦などレーダー投影面積の大きい目標に向っていた。シースパローやESSMが捕らえることが出来た対艦ミサイルは19発だった。防空網を擦り抜け、『大和』『武蔵』『翔鷹』に指向した24発のミサイルに対して、自艦は元より、近くを航行する護衛艦からも20mmバルカンファランクス、21連装RIM等のCIWS(近接防御システム)が濃厚な弾幕を形成した。防空輪形陣の中に突入したミサイル達の幾つかはまるで大雪の様に舞うチャフの雲の中に飛び込み、レーダーを攪乱されて迷走するもの、IRフレアの熱源に誘われて赤外線誘導装置の標準を外されて海面に飛び込む物、RIM(ローリングミサイルシステム)のミサイルに撃墜されるものが多発した。20mmバルカンファランクスが激しく目標に首を振り向け1分間に3000発という大量の20mm砲弾を叩きつける。これにより、更に5発に撃ち減らされる。しかし、防げたのはここまでだった。最初は『大和』に指向していた一つがチャフによって大きくコースをそれた先に駆逐護衛艦『不知火』がいた。『不知火』はCIWSの激しい弾幕でわずか20メートルの位置でこれを捕らえたが、ミサイルの爆発によって飛び散った破片と爆風が左に回頭中だった『不知火』の右舷側を襲った。運が悪いことに破壊し切れなかった大きな破片が艦中央に配置されたSSM−4対艦ミサイルのキャニスターに激突。大爆発を誘発させたのだ。敵艦に対して威力を発揮させるはずだった弾頭重量260キログラムの高性能火薬を積んだ合計八発の破壊力は自艦に対して向けられ、『不知火』の8300トンの艦体をぽっきりと二分に破断させ、その乗組員達は唯の一人として艦外に脱出させる暇も与えられないまま、極短時間で波間に没していった。航空護衛艦二隻を護衛していた第七護衛隊の駆逐護衛艦『瀬戸霧』は航空護衛艦『翔鷹』から1000メートル、回避回頭中の『翔鷹』右舷より45度後方に位置していた。『瀬戸霧』は発射速度、最大毎分85発にも及ぶ76mm速射砲を時速約800キロメートルで突入してくる対艦ミサイルに向け撃ち放っていた。速射砲の砲弾は『瀬戸霧』の前方50メートルで目標を捕らえて近接信管を作動させた。炸裂した砲弾の破片は見事にミサイルを破壊したが、至近距離で破壊されたミサイルの破片が『瀬戸霧』の射撃管制装置を破壊し火災を発生させ、そこへ更にもう一発のミサイルが飛び込んできた。このミサイルは海面上からポップアップすると赤外線誘導装置を『瀬戸霧』の火災炎に標準をロックし、『瀬戸霧』艦橋部に突入。たやすく天井を突き破ると600キログラムの高性能火薬の能力を開放した。
 「一瞬、目を焼かれるような閃光があったと思ったら、次の瞬間にはさっきまでそこにいたはずの『瀬戸霧』はもう消えていました。あれが轟沈ってやつだったんですね。後に残ったのは海面から吹き上がる大量の水蒸気と黒煙だけでした。本当に身の毛がよだちましたよ。」とは『翔鷹』飛行甲板員の話である。

 「我方の被害、『不知火』『瀬戸霧』沈没、『摩耶』中破、『敷波』小破。『摩耶』『敷波』は航行可能。第七護衛隊の『夕霧』『浜霧』を護衛に付けて帰還させます。」樽見が北岡に報告する。
 「これより敵艦隊に対し反撃に移る。各艦、対艦ミサイル攻撃開始せよ。対艦ミサイル発射終了後、航空機動部隊を艦隊から切り離し、水上打撃部隊を突撃隊形にて敵艦隊に突入する!」
 「了解。各艦、対艦戦闘開始します。対艦ミサイル発射完了後、水上打撃部隊を編成し敵艦隊に向け突撃します!!」
 国防軍海上自衛隊連合護衛艦隊から発射された対艦ミサイルは国産SSM−4が116発、ハープーンが58発の合計174発であった。これらは敵ミサイル巡洋艦、防空駆逐艦の防空ミサイル、対空火器によって70発余りに撃ち減らされた後、敵防空陣に突入しCIWSなどの対空火器に捕らえられ撃墜されその数を45発に減らしたが、高麗海軍の防空能力が防げたのはそこまでだった。高麗海軍の装備するECMはSSM−4に対しては効果を十分に発揮できなかった。SSM−4はECMを受けた段階で、妨害電波に向けてコースを変えた。対レーダーミサイルとして機能するのだ。敵陣に飛び込んだ対艦ミサイル軍は次々とECMを掛けた敵艦に飛び込んで行き、比較的緊密な陣形を取っていた東海艦隊の外側から順に被弾していく。近代の艦艇としては比較的装甲の厚い旧ソ連製コピーの戦闘艦たちでは有ったが、やはり巡洋艦は巡洋艦、駆逐艦は駆逐艦でしかなかった。ミサイルはECM搭載艦を損傷させしめ、レーダー妨害を排除させた。その後、数発が最もレーダー輻射面積の大きい11490トンの排水量を持つスラヴァ級大型ミサイル巡洋艦数隻に命中。轟沈するもの、大破するものが続発した。その他ミサイル駆逐艦などは一発のSSM−4またはハープーンの命中で轟沈してしまう。
 「現有敵戦力、巡洋艦8、駆逐艦12。敵艦隊逃走します。敵艦隊進路080、速度18ノット、我艦隊からの距離45(5万メートル)」
 全ての残存ミサイルが着弾したことを唯子は戦術情報ディスプレイからすばやく情報を読み取ると状況を報告した。
 「艦隊再編成。これより打撃護衛隊を編成し敵艦隊を追撃する。艦隊速力、最大戦速へ。本艦および『大和』『武蔵』は左主砲戦用意!!砲戦距離38にて砲撃開始。弾着観測はFFOS(Flying Forward Observertion System:遠隔操縦観測システム)を使用する。」北岡が3つの命令を同時に下令すると、篠丘が直ちに命令を下命した。
 「艦長了解!!両舷強そーく、速力33(33ノット)とぉーりかぁーじ!!」
 「両舷強そーく、速力33 とぉーりかぁーじ!!」

 ガスタービン特有の甲高い金属音が艦の後方から響くと共に『飛鳥』の艦体は僅かに身震いすると大きくフレアの付いた艦首が激しく波を立て始め、マスト上の旭日旗が激しく旗めきを増した。今、『飛鳥』を先頭に『大和』『武蔵』の順で彼女たちが発揮しうる最大速度の33ノットで敵艦隊に向かって突進を始めた。それに呼応し、防空戦闘のため周囲に散らばっていた駆逐護衛艦、巡洋護衛艦達が各々定められたポジションに就こうと寄り添い、次第に一本槍の単縦陣を築き上げていった。その間、敵国沿岸からは数発のシルクワームが飛来したが、自衛艦隊の防空システムは完璧に機能し、それらが損害を与えることはもはや無かった。
 やがて30分が経過し、レーダーコンソールのディスプレイを睨んでいた唯子が報告する。
 「敵艦隊までの距離35(35000メートル)方位270」
 「敵の逃げ道を閉塞する。艦長、主砲戦準備。」 頃合良しと見て北岡は篠丘に言った。
 「砲術長!主砲戦用ー意!!、砲戦距離30、航空課はFFOS発艦急げ。」
篠丘が下令する。『飛鳥』砲術長、石井 丈 三等海佐は待ち兼ねていたとばかりに復唱した。
 「目標、本艦より左前方11時方向、初弾から斉射で行きます。主砲射撃管制システムオールグリーン。補足目標、先頭の巡洋艦。1番から3番主砲塔、射撃準備よし!!」
 FFOSとは全長3.8m、全幅:1.2m、全備重量:275キログラム、最大速度:約200km/h 、最高飛行高度2800mの性能を持ち、富士エアロクラフトテクノロジが主契約企業となり、国防軍技術本部と海上自衛隊、陸上自衛隊が共同で開発した無人偵察機である。システム概要は可視・赤外線カメラを搭載した単発タービンエンジン無人ヘリコプターと、飛行管制、データ送受信・処理、整備などの艦上(地上)装置からなるシステムで、完全自動飛行により遠距離観測の任務を遂行することができる。この機体はプログラムによって離着陸を含めた完全自律飛行を行い、敵地上空から索敵し、リアルタイムで画像を取得・伝送することが出来き、装甲護衛艦の主砲、陸自の装備なら榴弾砲車や多連装ロケットシステムの射程をカバーできるよう50km以上の縦深観測能力を持つ。航続時間は三時間以上に及ぶ。昼夜間・悪天候でも観測が可能であり、システムはユニット化されているため、短時間での着脱が可能で搭載されたセンサー等の機器には自爆装置が備わっており、秘匿性を確保している。

 主砲射撃30秒前を告げるブザーが艦内に響く。イージス化が進んだ現用艦では戦闘中、殆ど艦外に人間が出ることは無いが、それでも主砲発射の衝撃に備えるための準備を乗組員全員に促すため、この手順は欠かせなかった。
 「敵艦隊までの距離30(三万メートル)」
 「主砲、撃ちー方始めーっ!!」
 「撃ちー方始めっ!!」
 「てーーーっつ!!」
 先陣を切って、ついに『飛鳥』3基合計9門の55口径460mm主砲が一気に火を噴いた。その刹那、轟音と共に瞬時に固形化した大気が艦の構造物を襲う。CDCの中ではスピーカのリミッターが働き、艦外の音声情報はカットされるが、それでも主砲発射の衝撃は空気の振動となってCDC職員たちを震わさせた。
 「『大和』撃ち方始めました。」
 「『武蔵』撃ち方始めました。」 『飛鳥』『大和』『武蔵』から発射された重量1.48トンの砲弾合計21発は音速の2.5倍の速度で三万メートルの距離を6分掛けて飛翔することになる。唯子はじっとレーダーコンソールを見つめている。コンソールのディスプレイ上には敵艦隊目掛けて突き進む21条の白線が徐々に目標に近づいていく。やがて‥‥。
 「弾着ーーく、今!!」


同時刻
高麗海軍 東海艦隊旗艦
ミサイル巡洋艦『元山』



 「敵戦艦、発砲!!」
 「弾着予測、あと2分」
 CIC内では、慌しく現状報告が飛び交う中、重苦しい空気が流れていた。
既に、壊滅的打撃を受けた東海艦隊は、残った戦力を保全すべく艦隊が現在出しうる全速の18ノットで遁走を図っていたが、日本艦隊はどんどん距離を詰めてくる。『元山』に座乗する東海艦隊司令部は焦燥感に苛まれていた。
 「艦長、もっと速度は出せんのか!!」
 「本艦だけならまだ25ノットの発揮が可能ですが、残存艦が損傷のため追従できなくなります。」
 東海艦隊司令官と『元山』艦長との会話に、後ろから割り込む人物がいた。政治士官と呼ばれる言わば司令部の監視役であった。
 「同士司令、だったら本艦だけでも全速を出したまえ。こうなったら本艦だけでも保全するのだ。全滅などしてみろ、偉大なる首領様に顔向け出来ん。」
 「同士政治士官、あなたは損傷した残存艦の乗員達を見捨てろとおっしゃるのか!」
司令官は威圧的に言い放つ政治士官を一瞥すると吐き捨てるように言った。
 「彼らも気高い共和国軍人である!首領様のために喜んで命を捧げる筈である!!全速発揮が可能な艦だけでも保全するのだ。さぁ、全速を命令したまえ!!」
 「…… 出来ません。彼らは大事な私の部下達だ。元々この作戦は無謀だったのですよ。我々の戦力で日帝艦隊と渡り合おうというのが。すでに以西を守る西海艦隊も米帝艦隊に壊滅させられている。こうなってしまっては、私は艦隊乗員のため、日帝に降伏するのも止む終えないと考えている。」
 「なにを!この場に及んで臆病風に吹かれたか指令!貴官は敗北主義に犯されている!!そんなことは絶対に許さん!この場で貴様を処刑する!!」 
 政治士官はヒステリックに叫ぶと腰のホルスターにつるされた拳銃に手を掛けた。その刹那、艦が激しく振動し、CIC内の全員が一瞬、中に浮いたかと思うと床に激しく叩きつけられ、人事不詳に陥った。艦外ではナイアガラ瀑布のごとく幾つもの巨大な水柱がそそり立っていた。『飛鳥』『大和』『武蔵』の放った一発あたり約1トン半の質量を持つタングステン製弾頭は、無人弾着観測機FFOSから与えられた敵艦隊周辺の風向、風速、気温、湿度などの詳細データを反映させたレーダー標準により、斉射にも関わらず、初弾から侠叉を得たのだ。直撃しなかったとはいえ、着弾の水中爆発による衝撃は四千トン弱の旧ソ連製巡洋艦『元山』の長細い艦体を激しく小突きまわした。
「こ、これが戦艦の主砲の弾着か……。」CICの床に横たわったままで、司令官はそう呟き終わらぬうちにまたも激しい衝撃を感じ、目の前が真っ赤に染まったと思った次の瞬間に意識が暗転した。 第二射目の斉射弾が次々と東海艦隊の艦艇らを捉え、その凄まじい破壊力は彼女達を海中の墓標へと変えていったのである。



2005年4月9日 PM 1 : 50
航空装甲護衛艦『飛鳥』CDC



 「目標、完全に撃破。敵艦隊はほぼ壊滅状態です。陸上の状況も偵察衛星からの画像を解析した限りでは、トマホーク攻撃による第一次攻撃で敵空軍基地ならびに弾道ミサイル基地の機能を完全に喪失せしめた模様です。艦載機による第二次攻撃は不要と判断します。CAP(上空哨戒)はこのまま継続しますが、制空、制海権は完全に我が方が奪取できたと判断します。『甲一号作戦』は概ね成功したと言えるでしょう。」
 「うむ……。良いだろう。艦隊速度第二戦速へ落とせ。作戦幕僚、装甲護衛艦戦隊はこのまま沿岸に接近。オペレーション『ロメオ』支援準備に入れ。1400時をもって邦人救出作戦を開始する。『ロメオ支援艦隊』に指令。最大戦速にて作戦沿岸海域に突入せよ。陸自『ロメオ』隊に直ちに状況開始を伝え。沿岸に潜伏中の海兵部隊にも状況開始を指令せよ!!」
 北岡は一度に三つの命令を発すると樽見はメインパネルを見据えたまま復唱した。
 「はっ、1400をもって邦人救出作戦を開始。『ロメオ支援艦隊』は最大戦速で作戦沿岸海域に突入。陸自、海自海兵部隊に『ロメオ』状況開始を指令します。」

 現在、『飛鳥』以下装甲護衛艦三隻を中心とした国防軍連合自衛艦隊は、咸興平野沖合い20海里の位置まで接近していた。その後方より、護衛艦九隻に守られた強襲揚陸艦『葛城』『大隈』輸送艦『下北』が進撃していく。強襲揚陸艦『葛城』『大隈』の艦上では海上自衛隊海兵課の戦闘ヘリコプター、AH−1JやUH−60JA、大型輸送ヘリコプターCH−47JAらが発艦の準備に追われていた。
 強襲揚陸艦『大隈』は、全長:186メートル、全幅:26メートル、満載排水量:14,700トン、COGAC式ガスタービンエンジン四基を搭載し、最大速力:27ノットを発揮する。 ヘリ、陸上自衛隊車両や兵員等の輸送能力を持つことは元より、LCAC二隻を運用した沖合いからの揚陸能力、そして輸送、戦闘、対潜哨戒ヘリコプターやVTOL航空機の運用能力もあわせ持ち、さらに機動艦隊に追従できるだけの速力を発揮できることを求められ、建造された多目的輸送艦であった。
 『大隈』の艦体構造は、機関やソナー類を納めた艦底にあたる低層部から輸送兵員室、輸送車両格納庫、LCAC格納庫兼発進ゲートがある中層部、航空機格納庫と輸送車両格納庫を兼ねる上層部と大きく三層に分れていて、最上部の航空甲板にも輸送車両の係留が可能となっている。また、中層部には本格的な医療設備を持ち、災害派遣時の即時対応が可能である。航空機搭載数は6〜8機。乗員80名、揚陸部隊最大500名が輸送可能である。 艦橋構造部は艦体の大きさに比べると縦横比が大きく細長い印象を受けるが、これは最上甲板のスペースを少しでも広く使用するための配慮であった。
 一方の『葛城』は強襲揚陸艦としては中型の部類に入る『大隈』級の揚陸能力を補填するため、アメリカ海軍の装備するタワラ級の発展型として建造された海上自衛隊初の本格的強襲揚陸艦である。全長:250メートル、全幅:32.3メートル(飛行甲板幅:36メートル)、満載排水量:39,300トン。
 タワラ級との相違点は機関が蒸気タービンではなく、COGAG方式ガスタービンを搭載している点で、二軸を四基のガスタービンエンジンによって駆動し、160000馬力の高出力と、ガスタービン化による軽量化によって大型強襲揚陸艦としては最速の速力27ノットが発揮できる。航空機は約19〜26機を搭載し乗員940名の他、揚陸部隊最大1,880名を輸送することが可能で、LCAC四隻を運用する。


2005年4月9日 PM 2:00
強襲揚陸艦『葛城』
戦闘艦橋



 「これよりわが隊は咸興海岸線に接近。『ロメオ』部隊の収容ならびに邦人の救出支援作戦を開始する。」
ロメオ支援艦隊司令、八重島 丈太郎 海中将はこの時を待っていたとばかりに命令を大音声で発した。この命令を受けて『葛城』『大隈』『下北』各艦並びにその護衛部隊は邦人救出部隊の支援、回収作戦に向け、行動を開始した。
 「本艦進路020、最大戦速!攻撃ヘリ、輸送ヘリを直ちに発艦。」『葛城』艦長 草薙 信吾 一等海佐は矢継ぎ早に二つの命令を発した。
 「最大戦そーく!!」
 「攻撃ヘリ発艦開始!!」
 戦闘艦橋内では復唱が飛び交い、各要員の緊張感が高まっていった。


同時刻
『葛城』飛行甲板



 慌しく動き回る甲板要員を尻目に、甲高い叫びのようなターボシャフトエンジンの排気音が高まり、メインローターの回転は激しい気流を『葛城』の飛行甲板に叩きつけながら大小の機影が次々と離艦していく。それと同様の光景が『大隈』の艦上でも繰り広げられているはずだ。彼らは一旦上空で5つの挺団を組んだ後、機軸の左側に広がる海岸線めざして旋回しつつ速度を上げて艦隊の輪形陣を追い越していく。その先頭を行く小さな機体があった。国産観測ヘリ、「OH−1」である。 「OH−1」は、敵を低空から偵察し、地上攻撃部隊や戦闘ヘリコプター部隊に最新の情報を提供、戦術を支援するため、敵に気づかれないよう極低空を高速で飛行する高性能性、敵に気づかれて攻撃された場合も、情報を完全に伝えるために高い生残性を確保しており、固定武装はないが、胴体両側の安定翼下のハードポイントを介して、91式携帯地対空誘導弾(SAM−2)を転用した自衛用の短射程空対空ミサイルを、箱型の二連装ランチャーに搭載して四基(左右二基ずつ)装備することが可能で、ヘリコプターや軽航空機に発見された場合は、ミサイルで自衛攻撃できる。また翼下には増槽二基を標準装備する。エンジンも強力で、垂直上昇、80度での急降下、宙返り、後ろ向き宙返りなどのアクロバット飛行も可能である。
 「OH−1」後席操縦席で操縦桿を握る、海兵課パイロット相原 幸一 一等海尉はSFH通信システムのスイッチを入れると、戦術指揮を統括するAWACSに通信回路を開いた。 
 「ヤタガラスよりセントレス01、ヤタガラスよりセントレス01。目標ポイント到達まで約10分。これより先行降下し、敵情を観測する。送れ。」
 『こちらセントレス01、これよりF−4エメット二機編隊が周辺の敵対空砲陣地に爆撃を加える。状況開始のタイミングは任せるが、爆炎、爆風には十分に注意されたし。送れ。』
 「ヤタガラス了解。交信終わり。」
 「一尉、後方からF−4編隊、来ます!」通信を終えるなり、前席偵察員 柊 弘道 三等海尉が後方監視レーダーのスコープを見やると報告した。
 雷鳴の如く轟く轟音が頭上を追い越していく。爆撃支援のため、航空護衛艦『瑠鵬』から飛来した航空自衛隊302航空隊所属のF−4EJ改2ストライク・ファントムである。相原は一瞬頭上を見やるとにやりとして呟いた。
 「しびれやがるぜ。頼むぜ空自さん」

 航空自衛隊所属のファントムUの中でもこのEJ改2型と邀撃型の1型はF−4EJ改を艦上機として運用できるよう、外翼を油圧で折り畳める事が出来、エンジンも国産のF3000−IHI404型に換装しており速力マッハ2.5を発揮する。また、海上自衛隊艦載機と作戦連携を密に取れるようにSFH通信システムを装備している。また、この2型は夜間の低空進入を行えるようLANTIAN(Low-Altitude Navigation Targetting Infra-Red for Night ― 夜間用低高度赤外線航法/目標指示)ポッドを左右主翼の付根に二基搭載しており、右側がAN/AAQ ― 13B航法用、左側がAN/AAQ−14B目標指示用となっていて、右側のポッドで地形を把握し低高度を保持し、左側のポッドで赤外線/レーザー誘導によってターゲットを捉えて攻撃する役割を持っている。中身も1型とは大きく異なる改良が加えられており、機種のレドームにはAN/APY−05フェイズドアレイレーダーが収められ、ルックダウン、シュートダウン能力といった空対空兵装使用能力の他、100キロメートル離れた20メートル四方の物体(戦車などの物体や小さな建物)を識別できる優れた空対地能力も合わせ持っている。さらに通常型ファントムと最も異なるのが操縦席で、計器類はグラスコックピット化され、パイロットはNAG(Night Attacker's Goggle)付きのヘルメットを被り、ストライクファントムの前後席員はNAG上に表示されたCG映像を見ながら操縦、攻撃を行う様になっている。このストライクファントムを運用するのは宮崎県新田原基地をベースに編成された302飛行隊のみで、その飛行要員のほとんどが航空護衛艦 −空母− の着艦資格を取得しており、任務の性格上、航空護衛艦『瑠鵬』を第二の基地として運用されることも多い。これは今だF−4ファントムUが第一線の戦闘機として活躍しており艦上爆撃機としての運用能力も高いことから、航空自衛隊に在りながら空母艦載機を運用する唯一の航空隊であった。その垂直尾翼にはスコードロンマスコットのマフラーをしたカエル ― ケロヨンマーク ― が描かれている。

 「エメット1・1よりセントレス、ミッキーマウスを通過した。これより目標にアプローチする。」 F−4EJ改ファントムUの前席に座る機長、松本 亮 二等空佐は、AWACSに対して通信回路を開くと言った。ミッキーマウスとは航空自衛隊が任意に決めるポイントのことで、元々は「三国山」と言っていたが、それが「マウント・ミクニ」、「ミッキー・マウス」と変化したものだった。
 『マツ』は松本の、『ラッコ』は後席員 渡辺 武士 三等空尉のTACネームであった。航空自衛隊のF−4EJ改ファントムUは、前席が操縦、攻撃担当、後席がレーダー、対空、対地、対艦照準を受持つが、海上自衛隊のF/A−18FJ、F/A−37Bなどの複座艦上機と異なり、前後席ともパイロットが載り込み、また、両方に操縦装置が存在するためサバイバビリティが高い。 松本らが操るエメット編隊は僚機と共に、それぞれ30度づつの扇形に広がりながら高度を下げていく。彼らの任務は、収容所の周囲を高く囲んでいる防壁の一部をピンポイント爆撃により破壊して邦人救出部隊の突入口を作り出し、また、監視楼など味方にとっての障害と成り得る施設を排除することにある。
 『目標への攻撃突入は?』エメット編隊2番機、エメット1・2のパイロット、『ジェット』こと長谷川 雄一 一等空尉が聞いてきた。
 「アングル・オフで行く。一度目で四発投下で発炎筒地点の壁を攻撃、左にブレイクして旋回し、南西方向から侵入し敵施設を残り四発で攻撃する。」
 松本が答えるとレシーバにジッパーコマンドが鳴るのが聞こえた。アングル・オフ攻撃は目標めざして低空で進入、目標の真横で急上昇、高度四千フィートで横転し九十度旋回で降下して目標に正対したところで直進して爆撃することになる。この間に後席では渡辺が兵装パネルを操作しながら進入時に必要な修正値を左太もも上にクリップした表から確認する。今回は昼間爆撃のため、NAGゴーグルはヘルメットの上に跳ね上げたままで使用しないが、目標の座標、距離、対地速度など必要な情報はヘッドアップディスプレイや前後席の計器盤中央に配置されたディスプレイ上に表示される。渡辺は兵器管制パネルのスイッチや警告灯を手際よくチェックしていく。松本は僅かに操縦桿を調整し、救出隊の焚いた青色発煙筒を目指して機首を巡らした。






−6−
2005年4月9日 PM 1:20
高麗半島、咸興(ハムフン)郊外
咸興外国人収容所



 ここは高麗半島、咸興平野にある日本海に面した港湾都市である。城川江が市内を貫通しており、農産物の集散地でもあるが、工業は植民地時代に基盤が形成され、化学工業が中心の工業地帯が形成されている。まだこの地が朝鮮半島と呼ばれていた朝鮮戦争の際、1952年10月、中国義勇軍の猛攻撃で中国・北朝鮮国境地帯から退却した日米軍をはじめとする国連軍10万人が、一般市民10万人とともに興南の港から米海軍の艦船により海路南へ脱出する興南撤退作戦が行われた。興南は国連軍の艦砲射撃と空爆により破壊されたが、のちソ連などの東側諸国の援助もあり復興し、発展した。
 その郊外の山中に収容所施設があった。その施設は高い塀と鉄条網に囲まれ常時歩哨の監視がつき、在住者には出入りの自由が無いという。特殊機関の管理下、外国人が暮らすための施設である。
 今この周辺に陸海自衛隊特殊工作部隊45名 − 全員がレンジャー徽章もしくは空挺徽章をつけている − が息を潜めていた。防衛軍情報局の諜報員からの事前調査により、現在100名ほどの日本人被害者が収容されていることが解っていた。「甲一号作戦」、そして、米軍による「パシフィック・ストーム作戦」の発動により、高麗共和国内は混乱していた。実際、この収容所の警備も手薄になってきているようである。陸自のリコン(偵察)員が二時間ほど前に大隊規模の部隊が他の部隊の応援だろうか、一つしかない門から慌しく出動していった旨を報告している。
 陸上自衛隊 東部方面隊第一空挺団所属の大城 照仁一等陸尉は行動開始の指令を待ち続けていた。一ヶ月ほど前の深夜、咸興から東に10Km余り離れた海岸線の3Km沖合いに浮上した、海上自衛隊潜水艦 伊−516潜「たつなみ」ら二隻からゴムボートにて潜入上陸し、わずか一週間で作戦地周辺に展開して以来、戦闘糧食の他、雨水、野草などを食べるという過酷な状況下、収容所内部にも潜入し、既に潜入していた高麗人になりすました諜報員と連絡を取りつつ、着々と救出の準備を進めてきたのである。2日前、やっと作戦発動準備命令が衛星無線に入ってきたとき、大城は自分の臨時指揮下にある海上自衛隊海兵課部隊に脱出準備命令を下令した。今頃海自の海兵課は強襲揚陸艦の急襲作戦に備え救出予定地点の海岸線に展開している筈である。しかしながら、無線封鎖のため、自分達から電波を発生させることは許されないため、ただ自軍の進捗を信じて待つしかなかった。

 「敵さん、だいぶ泡食っているようだな。」大城は声を潜めながら傍らにいる通信士、山田 公平陸曹長に話しかけた。
 現在、邦人救出部隊である彼らは、収容所のコンクリート壁より約500メートルの距離を置き、それと平行に横10メートル程の塹壕を幾つも掘り、その中にそれぞれが身を潜めていた。高さ6メートル、厚さ50センチ、最上部に何本もの有刺鉄線を張り巡らせた壁の向こう側では、罵声にも近い声が幾度か飛び交っていた。丁度ここは、監視塔の死角になっており、塹壕の中に身を潜めてしまえばこちらの姿は敵には発見されにくい。
 「さっき受取った情報によれば、海自さんがだいぶ暴れまわってくれているようです。作戦地域の高射部隊はあらかた潰したって言っていました。そろそろ『大隈』や『葛城』の戦闘ヘリが突入してきてもいい頃ですね。」
 「あぁ。そうなれば無線封鎖も解除される。ここは修羅場になるだろうが少しでも多くの邦人を助け出せれば御の字だ。ここが腕の見せ所。やれるだけやってやるさ。」
 少しの沈黙の後、山田がふいに戦闘帽に装着したレシーバーを右手で押さえた。
 「お、噂をすれば突入準備の指令です。1400時をもってロメオ発動。」
 「あと15分か。よし、準備は良いか?突入箇所の爆薬設置の進捗は?!」
 「すべて完了しています。」
 「よし、無線封鎖を解除し、潜入員に状況開始を伝達せよ。間も無く空自のファントム が突入口を開ける。」 そこまで話した所で、雷鳴の様な轟音が東の空の方角から響き始めたのを聞くと、大城は秋葉 陸曹長に命じた。
 「青色発炎筒に点火!」
 「青色発炎筒に点火!」秋葉は屈んだまま復唱すると、腰に付けた背嚢に手を伸ばし青い帯の入った茶色い筒を取出す。そして先端の蓋を地面に叩き付けた後、青い煙が勢い良く吹き出たのを確認するとそのまま収容所施設のコンクリート壁の方向に勢い良く投げつけた。傍らでは山田が無線機の受話器を取って短く符丁を告げている。
 「総員爆風、爆音防御!!」
 大城はそれまで押さえつけていたストレスを全て吐き出すかのような大音声で叫んだ。全員が塹壕内に身を伏せると同時にまるで雷に襲われたような感覚に陥った。

 「マツさん、青色発炎筒が見えました。あそこ以外は落としちゃ駄目ですよ」
 「ラッコ、照準はお前がやるんだから落ちたらお前が悪いんだろ」
 「いやいや、僕のサイティングは完璧ですから。マツさんこそしっかりコースに乗せて下さいよ」
 「てやんでぃ。俺様の腕は日本一。舌かむなよ!!いくぞ!イン・ホット(攻撃開始)、ラン・イン(突入)!」 松本はアプローチ開始を遼機に告げるとマスターアーム・スイッチをON、「NOW」のコールと同時に操縦桿を引いた。それまで600フィートを示していたディスプレイの高度表示がグングン跳ね上がり、2500に到達すると操縦桿を右に倒す。2番機がピッタリと左後方を追従する。二機は右側に横転。高度表示が頂点の四千フィートに後500に近づくと今度は操縦桿を引いた。頂点で二機のファントムは背面飛行になる。渡辺は逆さになりながら真上を見上げると目標の青色発炎筒の煙を探しだすと叫んだ。
 「マツさん、タリホー・ターゲット!!」
 「ラァジャ!タリホー(視認した)!!」松本も目標を見つけ叫ぶと同時に右足でフットバーを蹴飛ばし機体を滑らしながら更に操縦桿を引いた。機首が下がり地上が頭上からせり上がって来る様に見えると今度は左にロールを打ち、背面から一気に姿勢を復帰させた。高度表示は2400フィート。松本の視界正面に青色の煙が鮮やかに映りこむ。
 「ヘッド・オンしてる。」松本がコールする。
 「修正なし!コースそのままで」
 「ラァジャ」
 「マツさん、ターゲット・ロック!ドロップ・ドロップ・ドロップ!!」渡辺のコールと同時に松本は操縦桿の上端についている爆弾投下スイッチを親指で弾いた。その刹那、ストライク・ファントムの主翼下二つのハードポイントに吊るされていた二機合計8発の250キロ誘導滑空爆弾が切り離される。同時に機体ふわっと浮上がろうとするのを押さえ込みながら機体を左右に激しく揺する。
 「ブレイク トゥーザ レフト!‥‥ナウ!!」松本は僚機に左旋回するとコールする。二機のストライク・ファントムは機体をほぼ真横に倒し、その主翼から激しい水蒸気の帯 ― ベーパートレイル ― を引きながら急旋回し離脱していく。
 誘導爆弾の群れはストライク・ファントムの機体を離れると、弾体に取付けられた小さな動翼を自ら操舵し、ロックされた目標に向かって正確に落ちていった。誘導爆弾はほぼ同時に、それもたがう事なく厚さ50センチのコンクリート壁に吸込まれるようにして激突すると信管を作動させた。
 閃光が膨れ上がり、凄まじい爆風と共にコンクリートの破片が周囲を襲った。塹壕の中の隊員たちはそれらが通り過ぎるのを必死に耐えた。もうもうとした煙が暫らく辺りを覆っていたが、それを吹き飛ばすように上空を「OH−1」が旋回を始めた。

 「ヤタガラスよりアツギ、ヤタガラスよりアツギ、収容所敷地内に監視所らしきもの4 箇所、機銃座8基、監視楼は4棟確認。100名程の邦人らしきグループが収容所中 央の広場に集まりつつあり。敵兵は小隊規模で周囲を包囲している。アツギ01、02 は機銃座を潰せ。03、04は中央広場の敵兵を威嚇、もしくは撃破せよ。送れ。」

 「OH−1」前席に座る偵察観測員 柴田 良平 海曹長は素早く現状を観測すると、AH64攻撃ヘリに通信を送りつつ観測データも同時に手際よく転送操作を行っていく。
 「アツギ01了解。状況を開始する。」
 「アツギ03了解。状況を開始する。」
『アツギ』はAH−64攻撃ヘリが所属する第51航空隊の本拠地が神奈川県の海上自衛隊厚木基地であることから簡易的に付けられた呼出符丁である。海上自衛隊艦載機は本来、航空護衛艦(空母)もしくは強襲揚陸艦に帰属せず、任務毎に各航空隊の所属する陸上基地から飛来し、艦上運用されることになっている。



 収容所 中央広場



 「沢口さん、レシーバー(無線機)に符丁来ました。青色発炎筒も見えます。」
 「斉田、いよいよだな。邦人居住者全員に集合の合図を出せ。あと15分も無いぞ。」
 「大丈夫。既に段取り済みです。合図後皆すぐに行動を始めるでしょう。」
 「よし、発音弾を打て。」
 今、発音弾の乾いた発射音の合図と共に、収容所で生活することを余儀なくされていた邦人達が、自分たちの意思により続々と広場に集まりつつあった。この中には、わざとこの国に拉致される事で潜入に成功した国防軍人が5名含まれている。彼らはこの日の為に、長い者で4年もの間、収容所生活を送ってきたのだ。それがやっと実現する。この邦人救出作戦は、約一月ほど前、第一空挺団が潜入上陸を果たした際、収容所内に潜入したリコン隊員に接触し、あらかじめ作戦計画書を受け取り今日の日のために綿密な準備をしてきたのである。そして本日早朝、「状況が開始される可能性有り」の連絡と共に小型火器や信号弾などの装備も密かに受取る事に成功していた。 救出作戦の要点は
 『青色発炎筒を視認せしめたならサバイバー(要救助者)を中央広場に集結させよ』
 『救出部隊の突入予定地点は北側の防壁ほぼ中央を空爆により壁を破壊するので、安全確保に留意せよ』
 『自衛隊機による爆撃後、救出部隊の輸送ヘリが着陸したならば、速やかにサバイバーを収容できるよう迅速に誘導せよ』
の三点であった。

 ここには学校の校庭のほぼ2倍の広さを持つ「中央広場」を囲むようにコの字形に六棟のコンクリート製3階建ての居住施設が作られており、そこで邦人97名23世帯が生活していた。中央広場からこの施設唯一の出入り口となる正門に向かって幅40メートル程、長さ400メートル程の道路が延びており、軍関係施設と収容施設とは高さ3メートルのフェンスで分けられていて簡単なゲートが設けられている。ゲートには監視所が設けられ、道路の両脇に収容所部隊司令部、軍関係者の寮や軍車両の整備場、ヘリポート、給油設備、訓示場が設けられ、施設の周囲は高さ5メートル、厚さ50センチメートルのコンクリート壁に囲まれ正門以外には出入り口は存在しない。ほぼ正方形の敷地全体の角4箇所には10メートルの高さを持つ監視塔が建てられており、脱走者などが出ぬよう『招待者』に目を光らせていた。
 拉致された「外国人」たちは、この国の一般国民よりはかなりの生活水準が与えられていたが、彼らは、この国の工作員に対する日本語や日本文化に対する教育係として、あるいは世界各国の出入国に便利な日本人のパスポート(旅券)を奪取するため、同時に日本国内での工作活動の利便性も増すため、拉致、もしくは誘拐されてきている。この他、侵入中に日本人と遭遇し目撃されたために拉致された者、更に拉致被害者に配偶者を与えることにより、配偶者やその家族を人質として拉致被害者を脱走させないよう、配偶者獲得のため拉致された者もいた。
 黙々と集まる「外国人」を前に高麗陸軍の監視部隊兵士10名ほどが駆けつけてきた。
 「おい!!今のは何の音か!?何故皆集結する!!住居に戻れ!!」
 「塀の外で発炎筒らしき煙が見えます!!」
 「何っ!!」 兵士の一人が叫んだ刹那、爆音と共に防壁の一部が大爆発した。爆発の瞬間、日本語での「伏せろ!!」の声と共に「外国人」たちが一斉に地面にしゃがみ込んだ。塀の前には住居棟があるため爆風を受ける事は無かったが、兵士たちは潜入員たちの放った携帯小銃MINIMIの5.56ミリを浴びることになった。上空を投弾の済んだストライクファントムが駆け抜けた後、すぐにAH−64攻撃ヘリが監視塔や、機銃座、広場に殺到する兵士達を容赦なく打ち倒していく。ほぼ一方的な殺戮であった。それとほぼ同時に、爆発後の濛々と立ち込める煙の中から、国防軍陸海自衛隊特殊工作部隊45名が素早く突入展開してくる。彼らは救助すべき人々の周囲をぐるりと囲んだ。 
 「私は民主日本国国防軍、大城と申します。大変お待たせしました。これより皆さんを祖国日本へお連れいたします。これより救出のためのヘリコプターがここに着陸しますので、皆さんは我々の指示に従って迅速に搭乗してください。」
 大城が彼らの前に立つと良く通る大きな声でそう言った直後、機体上部の前後に巨大なローターを持つ、一際大きなヘリ六機が飛来した。CH−47JAチヌークである。CH−47はアメリカのボーイング・バートル社で開発されたタンデムローター式の大型輸送ヘリコプターで、最大速度295Km/h、航続距離2,060Km。155mm榴弾砲と、砲の運用に必要な兵員と弾薬を丸ごと移動できる能力を持っていて、兵員なら30名を輸送可能である。隊員たちは、救助者達をヘリの着陸の際危険の無い位置にまで誘導していく。CH−47は互いの距離を充分に取りながらまず三機が着地し、機体後部のハッチを大きく開いたところへ、順次誘導していった。一機あたり20名を乗せ、次々にヘリは離陸すると上空待機していたCH−47が直ちに着陸してハッチを開き、最後の救助者を乗せたところで、大城や沢口ら50名もそれに乗り込む。そこまでに掛かった時間はわずか20分程でしかなかった。全ての救出ヘリが離陸した数分後、収容所の軍施設に、再びストライク・ファントムが襲い掛かった。



2005年4月9日 PM 3:07
航空装甲護衛艦『飛鳥』CDC



 「『葛城』ロメオ作戦司令部より入電!読みます。『われ、邦人救出に成功せり!!救 出の邦人は『葛城』『大隈』に収容完了。』以上です。」通信士、川島 悠美 一等海曹が入電した電文を読み上げる。
 「やったか!」北岡が思わずそう言うと、CDC内を歓声と拍手が支配した。
 「全艦に達する。全艦集まれ。これより本艦隊は当海域を離脱。日本に帰還する。対 空、対潜警戒はこのまま続行。艦隊進路180、第二戦速 。」
 それを諭すかのように北岡が同時に二つの命令を発すると、CDC内の喧騒はすぐに収まり、次々と命令、復唱が飛び交い程よい緊張感を取り戻した。
 「全艦集まれを打診。艦隊進路180、回転制定。速力20ノット」
 「本艦進路180。速力20ノット」
 「おもーかーじ!」
 「おもーかーじ!」

 今、日本艦隊は反転し、帰還の途に就いた。今まで激しい戦闘が行われていたはずの半島は異様なほどに静まりかえっていた。